スティーブンショアの視覚構造への探求
Stephen Shore. Merced River, Yosemite National Park, California, August 13, 1979. 1979. Chromogenic color print, printed 2013, 35 7/8 x 44 15/16″ (91.2 x 114.2 cm). The Museum of Modern Art, New York. Gift of the artist. © 2017 Stephen Shore
こんにちは、大阪でストリート写真を中心に撮っているHideki(@_th0710)です。前回に引き続き有名な写真家がなぜ世界で評価されているのかについて考えていきたいと思います。
今回紹介する写真家はスティーブン・ショアです。
写真史の流れからショアの写真について考えていきたいと思います。
スティーブンショアってどんな人?
1947年生まれのアメリカ出身のニューカラーを代表する写真家として知られています。
ショアは14歳にして、当時ニューヨーク近代美術館MoMAの写真部長をしていたエドワード・スタイケンに作品を見せ、購入された天才少年でした。しかし、ショアの写真を見てみると、アメリカの平凡な日常や風景の写真が多くパッと見て理解するのは難しいかもしれません。
ではショアはどのように世界から高い評価を得たのでしょうか。そもそもニューカラーの写真家とは何なのでしょうか。
ニューカラーとは
ニューカラーの代表的な写真家には、スティーブン・ショアの他にウィリアム・エグルストン (英:William Eggleston)、ジョエル・スターンフェルド (英:Joel Sternfeld )、ジョエル・マイロウィッツ (英:Joel Meyerowitz )などがいます。
そもそもニューカラーとはどういう写真を指すのでしょうか。次は写真史の流れからニューカラーの写真について考えていきます。
ニューカラーまでの流れ
1976年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で「フォトグラフ・バイ・ウィリアム・エグルストン」という展覧会が開かれます。これはアメリカ南部のありきたりな日常を写真に収めており、カラー写真が初めて芸術として認められた展覧会でした。
それまでのアンリ・カルティエ=ブレッソンらの「決定的な瞬間を主観的にモノクロフィルムで収める」というスタイルとは違い、彼は「自分を取り巻く世界を捉える方法」として決定的瞬間とは違う考え方や撮り方を選択したのです。
カラー写真自体は1940年代に実用化され、報道やコマーシャルでは盛んに利用されていました。しかし創造的な表現としては、色調の安定性の問題などからあまり使われておらず、表現としての写真においてはモノクロがまだ主流だったのです。
しかし70年代に入ると、カラー写真が抱えていた色調の問題などが解決され、カラー写真による表現を試みる写真家が出てきます。それが「ニューカラー」と言われる写真家達です。
この時期にジョエル・マイロウィッツやステーブン・ショア、ジョエル・スターンフェルドもアメリカの日常的な風景を大型カメラを使いカラーフィルムで撮影しています。写真家それぞれで意図や目的、被写体の選択は違いますが、「決定的瞬間」の対極的な、アンチクライマックスとして「ニューカラー」があるように思います。
ここまでざっとニューカラーについておさらいをしました。次にスティーブンショアの代表作について考えていきます。
スティーブンショアの代表作
次にショアの代表的な2つの作品について紹介していきたいと思います。
「American Surfaces」
ニューヨークからアメリカ南部に向かって、街を旅しながらローライ35で街の看板やダイナーでの食事、出会った人々をスナップショットで収めたシリーズです。
ショアはこの写真集で「写真の視覚的な慣習を超え、まるで見ているかのような写真を撮りたかった」と話します。要するに、写真を撮るにあたって綺麗な構図や決定的な瞬間、特別な被写体を撮るなどといった形式的な今までの写真を超えて、自分はどのように世界を見ているのか、視覚のスクリーンショットを撮るかのように撮影することを試みたのです。
ショアはこの写真群をポストカードサイズで印刷して、写真は大衆向けのプリントを使用し、意図的に大量消費の装いをまとった形で発表しました。
当時アート写真はモノクロで、カラー写真はアマチュアや家族のスナップ写真のためのものというのが一般的であったことは、バナキュラー(アメリカ固有の)写真に関心が強かったショアがアート写真にカラーを選ぶきっかけとなっています。
ショアは、アンディウォーホルのファクトリーに出入りしていたことからポップアートの影響も受けているようです。京都造形芸術大学教授の後藤繁雄さんはショアについての記事で以下のように記しています。
”写真は主体の表現ではない。写真は、消費されるパッケージや絵葉書と何ら変わらない。そして写真家だって、何らこの世界に溢れた商品と変わらない。ショアが『American Surfaces』でやったことを、ただ「ロードトリップ」フォトと語ることは明らかに片手落ちだ。何より重要なことは、「写真がメディアでありモノであること」を示す写真として提出されていることだ。きわめて自己言及的な意識がそこにある。写真という大量消費時代のメディアであり、商品であることを逆手に取ってアートへとシフトさせること。それはポップアートが行なった価値革命だった。ショアは、そのことを自覚的に選んだ最初の「フォトアーティスト」であった。”※1
※1 http://www.webchikuma.jp/articles/-/1309
ショアは日々の日常的なスナップショットによってそれまでの写真の視覚的な慣習を超え、まるで見ているかのような写真を撮り、それを当時の大量消費時代を表すような形で発表することによってポップアートの領域に昇華させたと考えられます。
「Uncommon Places」
ショアはAmerican Surfacesの次に小型カメラから8×10の大型カメラに持ち替え、1973年-1981年にかけてアメリカの風景を撮影しています。この写真も決定的瞬間はなく、何気ないアメリカの風景に焦点が当てられています。さらに、大型カメラによってボケはなく、細部までシャープに写されていることが特徴です。
全てを等価値に写すこと、そして写真を見るという行為(視覚構造)はどういうことなのかを意識的に写真化するものでした。
自分の視覚に対して、以下のように捉えています。
”感覚的に瞬間を捉えた前作「American Surfaces」とは異なり、どこに立ち、どのアングルから、どのように撮るか細部まで緻密に計算し、フレーム内に収まる全ての視覚的要素が調和のとれた瞬間”※2
※2 IMA LIVING WITH PHOTOGRAPHY 2020 Summer Vol.32
Uncommon Placesの前半は視覚的な構造自体が際立つ構図が目立ちますが、後半では撮影時にショアが受けた体験や感覚を活かすことに重点がシフトしていきます。
特徴的な構造原理に頼ることなく、写したい情報を取り入れるためにはどうしたら良いかを考えていく上で、構図に意識を惹きつけずそれ自体は透明にすることで、撮影対象に焦点を向けさせ、「時代の様相を浮かび上がらせる」ことに成功しました。
スティーブン・ショアの視覚構造への探求
「American Surfaces」、「Uncommon Places」ともに共通することは、ショアには「見る」という行為を考えていく姿勢があるところです。この視覚構造についての問いを考え続け、変化し続ける写真というメディアのなかで表現していく探究心が垣間見えます。
ショアは現在ではInstagramも利用するなど、現代の中で変化する写真に誠実に向き合い、一つの表現に固執しない柔軟さもありますね。
まとめ
ショアには見るという行為「視覚構造」を探究していく姿勢がありました。
常に変化し続ける写真というメディアを誠実に捉え、自身もその変化の中へ入り込み、写真の性質である「見ること(視覚構造)」をナチュラルに考え、表現を続けているからこそ世界から評価されているのです。
最近は新しい写真集も出版されていますね。今後の活動も非常に楽しみです。
・参考文献
1. 第3回進化するパイオニアたち②スティーブン・ショア http://www.webchikuma.jp/articles/-/1309
2. IMA LIVING WITH PHOTOGRAPHY 2020 Summer Vol.32
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